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秘密保持契約(NDA)は必要?中小企業が守るべき情報管理のポイント

更新日:6月6日

近年、ビジネスの現場では「秘密保持契約(NDA)」という言葉をよく耳にするようになりました。

特に中小企業にとって、技術・設計・営業戦略といった重要な情報は、経営そのものに直結する大切な資産です。

 

しかし実際には、「うちはそんな大企業じゃないから大丈夫」「口頭のやり取りだけで済ませている」という会社も少なくありません。

 

本記事では、弁護士の立場から、中小企業にこそNDAが必要な理由と、情報管理において押さえるべきポイントについて解説します。


1. 秘密保持契約(NDA)とは?

 

秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)とは、契約当事者の一方が開示する秘密情報について、相手方に漏洩や不正使用を禁止する契約です。

 

典型的には以下のような場面で締結されます:

  • 新規取引に向けた打ち合わせ時

  • 技術・製品・設計データの外注や委託

  • 業務提携や共同研究の検討段階

  • 営業情報や顧客リストの共有時

 

つまり、まだ契約は正式に結んでいないけれど、相手に情報を渡さないと話が進まない——そういった状況で情報漏洩のリスクを抑えるために必要な契約なのです。


2. NDAがないとどうなる?情報流出のリスク

 

NDAを締結せずに大事な情報を開示した場合、次のようなトラブルに発展するリスクがあります。

 

● 情報を他社に流された

 

自社が開発中の新製品の仕様を打ち合わせで説明したところ、数ヶ月後に競合他社からそっくりな商品が発売されていた——。

 

NDAがなければ、「秘密情報だったと証明するのが難しい」「契約違反とはいえない」といった理由で、損害賠償請求ができない可能性もあります。

 

● 社内情報が社員・外注業者から漏えい

 

業務委託先や元従業員が、顧客リストや価格表を持ち出してライバル企業に渡してしまった。これも中小企業で実際に起こっているトラブルです。

 

「書面にしておく」ことが最大の抑止力となります。


3. NDAを結ぶべき3つのタイミング

 

中小企業が注意すべき「秘密情報のやり取り」の場面は、実は身近なところにたくさんあります。

 

(1)外注・委託時の見積依頼・仕様書共有

 

施工図面や工程表などを外部業者に送る際、建築主や元請けの情報が含まれている場合は要注意です。

外注先にNDAを結ばせておくことで、情報の不正流用や再委託リスクを抑えることができます。

 

(2)新規商談・協業の初期段階

 

「まだ契約を結ぶ前だが、自社のアイデアや見積もりを提示したい」という場面では、まずはNDAからスタートするのが安全です。

 

(3)従業員・アルバイトの雇用時

 

中小企業では従業員の異動が少ないため、情報へのアクセスが属人的になりがちです。

退職時の持ち出しリスクを抑えるためにも、入社時の秘密保持誓約書の取得は有効です。


4. NDAに盛り込むべき5つの基本項目

 

秘密保持契約を締結する際には、以下の項目が明記されていることを確認しましょう:

 

(1)秘密情報の定義

 

「何が秘密情報か」を明確にする必要があります。

たとえば「書面、電子データ、口頭で開示された営業・技術・顧客情報など」と定義することが一般的です。

 

(2)秘密情報の除外事項

 

すでに公知となっている情報、相手方が独自に知っていた情報は対象外とする規定を設けるのが通常です。

 

(3)秘密保持義務の内容

  • 第三者への漏洩禁止

  • 開示目的以外での使用禁止

  • コピー・再提供の制限

 

といった具体的な禁止行為を記載します。

 

(4)契約期間・義務の存続期間

 

取引が終了しても、秘密保持義務が一定期間継続するように定めておくことが重要です(例:契約終了後5年間)。

 

(5)違反時の対応

 

違反があった場合の損害賠償請求、仮処分の申立て、仲裁や裁判管轄などについても明記しておくと安心です。


5. 紙より大事な「運用体制」

 

NDAを締結しても、「実際に情報が漏れたときに、誰が何をしたか分からない」という状態では意味がありません。

契約とあわせて、次のような社内の情報管理体制を整えることが重要です。

  • 秘密情報にアクセスできる社員の限定

  • USBや外部メールの制限

  • 紙媒体の持ち出し制限

  • 廃棄・退職時の手続フロー明文化

 

中小企業であっても、情報の棚卸しと分類(営業情報・技術情報・顧客情報など)は定期的に行うべきです。


6. 雛形の落とし穴と、弁護士活用のすすめ

 

インターネット上には多数のNDAの雛形が出回っていますが、「自社の業種・取引に合っていない」「裁判管轄が東京地裁になっている」など、そのまま使うと不利益を被る恐れもあります。

 

たとえば建設業界特有の情報(施主の個人情報、設計図の二次利用など)については、一般的な雛形ではカバーしきれません。

 

顧問弁護士や契約書に強い弁護士と相談のうえ、自社仕様にカスタマイズしたNDAを作成しておくことで、スムーズに各場面で使いまわすことができ、業務効率も高まります。


まとめ:NDAは「守りの盾」

 

中小企業にとって、社外との情報共有は避けて通れない一方で、「万が一の漏洩」が経営に大打撃を与えることもあります。

秘密保持契約(NDA)は、単なる形式ではなく、**自社のノウハウや顧客資産を守るための法的な“盾”**です。

  • 外注・提携・雇用の各段階でNDAを活用する

  • 自社の情報管理体制を整える

  • 雛形に頼らず、必要に応じて弁護士に相談する

 

これらを徹底することで、「信頼される企業」としての体制強化にもつながります。


当事務所では、業種ごとのNDA作成・レビュー、社内の情報管理体制整備に関するアドバイスも承っております。お気軽にご相談ください。

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