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就業規則は必要?従業員10人未満でも作成すべき理由

更新日:6月6日

「うちは家族的な会社だから就業規則なんて堅苦しいものはいらない」

「従業員が10人未満だから、法的には就業規則の提出義務もないし…」

このように考えている中小企業経営者の方は少なくありません。

 

確かに、労働基準法上は常時10人以上の労働者を使用する事業場に限って、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が義務付けられています(労基法第89条)。

 

しかし、「義務がない=不要」ではないというのが、弁護士としての私の見解です。

特に、現代の労働トラブル事情をふまえると、**従業員が1人でもいるなら就業規則は“作るべき”**だと強くおすすめします。

 

この記事では、その理由と、実務上のメリット、そして作成時の注意点について解説します。


1. 法律上の「義務」とは

 

まず、基本的な確認です。労働基準法第89条によると、以下のように規定されています:

 

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、これを行政官庁(労働基準監督署)に届け出なければならない。

 

ここでの「労働者」には、正社員だけでなくパート・アルバイトも含まれます

 

したがって、義務としての就業規則が必要なのは「常時10人以上」

逆にいえば、10人未満の事業場では法的義務はありません。

 

しかし、それでも就業規則を作成するメリットは極めて大きいのです。


2. 就業規則が「ない」ことのリスクとは?

 

● トラブル時に「ルールがない」と揉める

 

たとえば、以下のようなケースを想定してください。

  • 従業員が無断欠勤を繰り返す → どこまで注意して、いつ解雇できるのか?

  • 残業代について「言った・言わない」の水掛け論になる

  • 退職者が「有給を全部まとめて取りたい」と言ってきた

 

こうした労務トラブルが発生したとき、就業規則がないと、会社側の判断の正当性を説明する根拠がありません

労働者との感情的な対立に発展しやすく、最悪の場合、法的トラブルに発展することもあります。


3. 従業員10人未満でも「作成すべき」3つの理由

 

理由①:労務トラブルの予防と対処に役立つ

 

明文化されたルールがあることで、社員の行動指針が明確になります。

同時に、会社としても一貫した対応が可能になり、「例外」「その場の判断」が減ります

 

特に「懲戒処分」「服務規律」「解雇」などのセンシティブな事項については、明文化されていないと裁判等で無効とされる可能性もあるため、必須といえます。


理由②:採用や定着率に良い影響を与える

 

就業規則には、「休日」「労働時間」「福利厚生」「退職手続き」などの基本情報も含まれます。

これらが整備されていれば、採用時に求職者へ安心感と信頼感を与えることができます。

 

また、職場内でも、「ルールがはっきりしていてフェア」という印象は離職防止やモチベーションの安定にもつながります。


理由③:助成金申請に必須となるケースが多い

 

中小企業向けの各種助成金(人材開発支援助成金、キャリアアップ助成金など)では、就業規則が整備されていることが申請要件となる場合が多くあります。

 

つまり、就業規則がなければ、せっかくの支援制度を使えない・損をする可能性もあるのです。


4. 就業規則に最低限盛り込むべき項目

 

法的に必須とされている「絶対的記載事項」は、以下のとおりです(義務がなくてもこの項目は基本):

  • 始業・終業の時刻、休憩・休日・休暇

  • 賃金の決定、支払い方法、締切と支払日

  • 昇給・退職・解雇の定め

 

さらに、実務上は次のような項目を加えておくと、トラブル回避に有効です。

  • 残業命令とその手続き

  • 遅刻・早退・欠勤の取り扱い

  • 服務規律(会社内のマナー・SNS使用など)

  • 懲戒事由と処分内容(警告、減給、懲戒解雇)

  • 退職時の手続き(引継ぎ、備品返却など)


5. よくある誤解と注意点

 

「インターネットのテンプレートで十分では?」

 

市販のフォーマットや無料テンプレートもありますが、それをそのまま使うと実態に合わずトラブルになる危険があります。

  • 実際の労働時間と合っていない

  • 固定残業代の記載が不完全

  • 建設業などの業種特有の運用が考慮されていない

 

こうした問題を避けるためにも、自社の実情に合った形で専門家と相談しながら作成することが望ましいです。


6. 弁護士としての提案:「会社を守る契約書」としての就業規則

 

就業規則は単なる“社内のルールブック”ではありません。

むしろ、「従業員との労働契約の内容を明文化した文書」であり、会社を守る法的防具として機能します。

  • 退職・解雇をめぐる紛争

  • 残業代請求や労働時間の争い

  • 不当な要求への対応(特別な休暇、金銭の要求など)

 

こうした局面で、就業規則がなければ、会社は非常に不利な立場に置かれることになります。


まとめ:就業規則は「義務」よりも「自衛手段」

 

従業員が10人未満でも、就業規則は「作っておくべき」ものです。

なぜなら、法律的な義務の有無に関係なく、会社を守るため・健全な経営を続けるために必要不可欠だからです。

  • トラブル防止の観点から

  • 従業員との信頼関係を築くために

  • 助成金や採用活動でのプラス材料として

 

就業規則を整備することは、会社経営の“保険”であり、リスク管理の第一歩です。


 
 
 

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