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解雇トラブルを防ぐには?中小企業がやりがちなNG対応と正しい手順

更新日:6月6日

社員の勤務態度に問題がある、能力が足りない、会社の業績が悪化した……。

このような事情で「そろそろ辞めてもらいたい」と思ったとき、安易に“解雇”という手段を選ぶと、大きなトラブルに発展するリスクがあります

 

特に中小企業では、労務管理の体制が整っていなかったり、感情的な対応が先行してしまったりするケースも多く、解雇が**「無効」とされて賠償請求につながる事例**も少なくありません。

 

この記事では、弁護士の視点から、解雇トラブルのよくある原因と、中小企業がやりがちなNG対応、そしてトラブルを避けるための正しいステップについて解説します。


1. 解雇とは何か?意外と高いハードル

 

労働契約法では、次のように定められています。

 

第16条:解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

つまり、会社側の「納得いかないから辞めてもらう」は通用しません。

解雇には**「合理的な理由」と「社会的妥当性」**が求められ、これを会社側が証明できないと、解雇は無効になるのです。


2. よくある中小企業の「NG対応」

 

中小企業で特に多い誤った解雇対応には、次のようなものがあります。

 

● NG①:いきなり「明日から来なくていい」

 

いわゆる即時解雇です。

重大な非違行為(横領や暴力など)がない限り、正当な手続きを踏まずに突然の解雇を告げると、不当解雇として損害賠償請求される可能性が高いです。

 

● NG②:「自己都合退職にしておいて」

 

会社側が辞めさせたいのに、従業員に「退職届を出してほしい」と促す、いわゆる追い出し型の退職勧奨も注意が必要です。

強く退職を迫ると、「実質的には解雇だ」として無効になることがあります。

 

● NG③:就業規則がない・解雇理由が曖昧

 

「勤務態度が悪い」「会社の方針に合わない」など、抽象的な理由だけで解雇を進めようとするケースもあります。

就業規則に定めがなく、懲戒事由が不明確なままでは、裁判所に合理性を認めてもらえません。

 

● NG④:コスト削減を理由に早期に決断しすぎる

 

業績悪化に直面すると、解雇を「コスト削減手段」として選ぶ経営者もいます。

しかし、経済的理由による整理解雇には、厳しい4要件(後述)が求められ、特に中小企業での立証は難しいのが実情です。


3. 解雇を進める前に確認すべきポイント

 

● 段階的な注意・指導は行ったか?

 

問題のある社員に対しては、まず注意・指導・配置転換など段階的な対応を取り、それでも改善が見られない場合に限って、解雇が選択肢になります。

 

具体的には:

  • 注意指導の記録(書面やメール)

  • 面談記録(トラブル内容、改善指導、本人の回答)

  • 就業規則に基づいた処分履歴(けん責、出勤停止など)

 

これらが証拠として残っていることが極めて重要です。


● 解雇理由が就業規則に明記されているか?

 

就業規則の「懲戒事由」「普通解雇事由」に該当することを会社側が主張・立証できなければ、解雇は無効とされるリスクが高まります。

 

例:

  • 無断欠勤〇日以上

  • 正当な理由なく業務命令に違反した

  • 業務に重大な支障を及ぼす非行があった

 

など、客観的に判断できる基準が必要です。


4. 経済的理由による解雇(整理解雇)の要件

 

業績悪化による人員整理の場合も、次の4つの要件(「整理解雇の4要件」)を満たさないと無効とされる可能性があります。

  1. 人員削減の必要性:経営状況が著しく悪化していること

  2. 解雇回避努力義務の履行:配置転換、残業削減、役員報酬カットなどの努力を尽くしたか

  3. 被解雇者選定の合理性:誰を解雇対象にするかの基準が明確であるか

  4. 手続きの妥当性:本人への説明、同意の努力、協議がなされているか

 

「苦しいから辞めさせたい」というだけでは、裁判所は認めません。


5. トラブルを防ぐための正しい手順

 

ステップ1:日常的な記録を残す

 

勤務態度や指導内容については、口頭だけで済ませず、書面やメールで記録を残すことが基本です。

特に、注意・警告文書、本人との面談記録は、後で「改善機会を与えた」と主張するうえで非常に有効です。


ステップ2:段階的な是正措置を行う

 

「懲戒解雇」や「普通解雇」の前に、

  • 配置転換

  • 出勤停止(就業規則に基づく)

  • 減給処分(要件を満たす場合)

 

といった段階的な措置を講じることが大切です。

最終手段としての解雇という位置づけを明確にしておきましょう。


ステップ3:弁護士に相談のうえ、退職勧奨を検討

 

解雇リスクが高い場合は、**退職勧奨(話し合いによる合意退職)**を検討することも一案です。

ただし、「強制的」「威圧的」にならないよう、第三者(弁護士・社労士)の立ち会いや助言を受けることをおすすめします。


6. 弁護士としてのアドバイス:「準備なくして解雇なし」

 

解雇は、企業にとっても社員にとっても極めて重大な出来事です。

そして、労働契約法・判例上、非常に高いハードルが課されていることを忘れてはいけません。

  • 感情的に判断しない

  • 書面で記録を残す

  • ルール(就業規則)に沿って手続きを進める

  • 事前に専門家と相談する

 

このような備えを怠ると、後々になって大きな代償を払うことになります。


まとめ:トラブルを未然に防ぐために

 

中小企業では「家族的な雰囲気」や「小回りの良さ」が強みですが、それゆえに法的手続きを軽視した解雇対応が多くなりがちです。

 

しかし、解雇は慎重に行わなければならない“法的リスクの高い決定”です。

社員数が少なくても、適切な準備と段階的対応を行い、解雇は最終手段として使うという姿勢が重要です。


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