パワハラ・セクハラの企業責任:中小企業が今すぐ取るべき対策とは
- moriyama

- 6月2日
- 読了時間: 5分
更新日:6月6日
「社員から『上司の言動がパワハラでは?』と相談があったが、どう対応すれば…」
「セクハラがあった場合、会社の責任ってどこまで?」
近年、ハラスメントに対する社会の目は厳しさを増し、中小企業でも企業としての対応が問われる時代になりました。
特に2022年4月からは、中小企業にも「パワハラ防止措置」が義務化され、何も対策を取らない状態は法令違反に該当するおそれもあります。
本記事では、弁護士の視点から、企業が負う法的責任と、中小企業でも今すぐ取り組める実践的対策を解説します。
1. 企業は「ハラスメントのない職場環境」をつくる義務がある
まず前提として、企業には**職場環境配慮義務(民法715条、労働契約法第5条)**があります。
これは、職場内で従業員が精神的・身体的に安全に働けるように配慮するという義務です。
したがって、パワハラやセクハラの被害を放置した場合には、企業も損害賠償責任を負う可能性があります。
加えて、2020年の改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)により、2022年4月から中小企業にもパワハラ防止措置が義務化されました。
2. パワハラ・セクハラの定義と判断基準
■ パワハラの定義(厚労省指針より)
パワーハラスメントとは、職場において
① 優越的な関係に基づき、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③ 労働者の就業環境を害すること
とされています。
たとえば、「お前の代わりなんていくらでもいる」「何度言ったらわかるんだ、バカか」など、人格を否定する発言は典型的なパワハラです。
■ セクハラの定義(男女雇用機会均等法)
セクシャルハラスメントとは、職場において行われる性的な言動により
① 労働者の就業環境が害される、または
② 労働者が不利益を受けること
が対象になります。
たとえば、「彼氏いるの?」「スタイルいいね」などの不用意な発言でもセクハラと判断されるケースがあります。
3. 中小企業が問われる「企業としての責任」
ハラスメント行為自体を行った加害者個人が法的責任を問われるのはもちろんですが、会社としても損害賠償責任を問われるリスクがあります。
たとえば:
パワハラでうつ病になった社員が自殺した ⇒ 企業に安全配慮義務違反で損害賠償
セクハラ行為を放置していた ⇒ 被害者が訴訟を提起し、企業も慰謝料支払い命令
相談窓口が機能しておらず、被害を申告できなかった ⇒ 企業の責任が重く評価される
特に近年の裁判例では、会社の対応の不十分さが厳しく問われる傾向にあり、早期の対応が不可欠です。
4. 2022年4月から義務化!中小企業のパワハラ防止措置
前述のとおり、2022年4月から中小企業にもパワハラ防止措置の実施が義務化されました。
企業が講じなければならない具体的措置は、以下の4点です。
① 会社の方針等の明確化と周知・啓発
パワハラは許さないという方針を明確にし、就業規則等に明記
社内報・研修等で、従業員に周知する
② 相談体制の整備
ハラスメントに関する相談窓口を設置
窓口担当者に研修を行うことが望ましい
③ 迅速・適切な対応
相談があった場合には、事実確認・当事者ヒアリング・再発防止措置を適切に行う
被害者への不利益取扱いの禁止も明記する
④ 再発防止の措置
問題行為者への指導・処分
組織全体への注意喚起や教育
これらは義務であり、実施しなければ労働局から指導・勧告を受ける可能性があります。
5. 就業規則や社内規程に盛り込むべき内容
ハラスメント対策を実効性のあるものとするには、社内ルールを明文化しておくことが重要です。
就業規則やハラスメント防止規程においては、以下の点を記載しておくべきです:
ハラスメントの定義と禁止
相談窓口の設置と対応手順
守秘義務や被害者保護
行為者への処分(例:懲戒処分)
再発防止措置の内容
とくに中小企業では、「規程はあるが実際には活用されていない」というケースが多く見られます。
形式だけでなく、実態として機能する体制づくりが求められます。
6. 中小企業でもできる実践的な対応策とは?
● 管理職向けの研修の実施
パワハラ・セクハラの加害者は、多くの場合「悪気がない」ことを理由に自覚がありません。
管理職がハラスメントにあたる言動を正しく理解することが、トラブルの予防につながります。
研修では、具体的な事例を用いたロールプレイ形式の研修も有効です。
● 相談しやすい窓口の工夫
「相談窓口が上司しかいない」「匿名で相談できない」となると、被害者が声を上げられません。
外部の弁護士と提携する外部相談窓口の設置も有効な方法です。
● 早期対応・証拠の確保
トラブル発生後に対応が遅れると、状況が悪化しやすくなります。
相談があった場合は、記録を残し、第三者を交えた対応を検討しましょう。
7. 弁護士からのアドバイス:放置は最もリスクが高い
ハラスメントの問題は、**「うちは家族的な雰囲気だから大丈夫」「今まで問題がなかったから」**という感覚で放置していると、企業としての責任が一気に重くなるリスクがあります。
万が一訴訟になれば、会社の信用や採用力に大きな影響が出ることもあります。
大企業に比べてマンパワーに限りがある中小企業こそ、制度整備と運用の工夫によって予防策を強化することが重要です。
まとめ:ハラスメント対策は企業の「信用力」を高める
パワハラ・セクハラは、単なる「人間関係のトラブル」ではなく、企業の法的責任が問われる重大な問題です。
近年では、労働局への申告やSNSによる告発など、企業にとって大きなダメージとなるケースも増えています。
中小企業にとっても、以下のような取組が求められます:
社内ルールの整備(就業規則・ハラスメント規程)
社員研修による意識の向上
相談体制の整備と迅速な対応
弁護士や専門家との連携によるリスク管理
職場環境の整備は、従業員の定着や採用力の向上にもつながる重要な経営課題です。
今こそ「ハラスメントゼロ」の職場づくりに向けた一歩を踏み出しましょう。
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