top of page

副業を許可すべき?中小企業が押さえるべき労働契約の見直しポイント

更新日:2025年6月6日

「うちの社員が副業を始めたと聞いたけど、就業規則で禁止していないからOKなの?」「副業を許可すると、本業に支障が出そうで不安…」

近年、働き方改革や価値観の多様化を背景に、「副業」を希望・実践する人が増えてきました。

大企業では副業解禁の流れが加速する一方で、中小企業では対応が追いついていないケースも多いのが実情です。

 

この記事では、弁護士の立場から、中小企業が副業を認めるか否かの判断基準と、認める場合・制限する場合それぞれにおける労働契約や就業規則の見直しポイントを解説します。


1. そもそも副業は認めなければならないのか?

 

まず押さえておくべき基本は、労働者が勤務時間外に何をするかは原則自由だということです。

つまり、企業が一律に副業を全面禁止するには、「業務に支障がある」など合理的な理由が必要です。

 

厚生労働省のガイドライン(令和5年7月改定)でも、以下のように示されています。

 

「就業規則において、労働者の健康確保や企業秘密の漏洩防止等の観点から、一定の制限を設けることは可能だが、包括的な禁止は望ましくない」

 

このように、時代の流れとしては原則「副業を認める」方向です。

しかし中小企業においては、「人材が限られている」「業務の属人化が進んでいる」「情報管理が難しい」などの理由から、安易に副業を認めることが経営上のリスクとなり得るのもまた事実です。


2. 中小企業が副業を制限・禁止すべきケースとは?

 

副業を「禁止」または「制限」したい場合でも、就業規則に明確な根拠がなければ無効となる可能性があります

次のようなケースでは、一定の制限を設けることが認められると考えられます。

 

● 労働時間が過重となる場合(健康への影響)

 

副業のせいで睡眠時間が削られ、本業に遅刻やミスが目立つようになると、企業の安全配慮義務(労働契約法第5条)にも抵触します。

就業規則では「副業により本業の遂行に支障が出る場合は、副業を制限・中止させることがある」といった規定を設けておくとよいでしょう。

 

● 競業避止(同業他社での副業)

 

自社のノウハウ・取引先情報などが流出するおそれのある「競業他社」での副業は禁止すべきです。

このような場合は、**競業避止義務(信義則や民法上の義務)**として一定の制限が可能です。

就業規則にも、「会社の利益を害する行為や、同業他社での就労は禁止」と明記しておくべきです。

 

● 会社の信用を毀損するような業務

 

反社会的勢力に関係する業種、風俗営業、マルチ商法など、会社の信用を損ねるリスクがある業務についても、制限可能です。

事前届出制とし、内容を確認のうえ許可制にすることも検討すべきです。


3. 副業を認める場合のリスク管理ポイント

 

副業を全面禁止せず、一定の条件のもとで認める場合には、以下のようなルール整備が重要です。

 

● 事前届出制・許可制

 

副業を「黙って始められる」状態にしておくと、健康管理や勤務状況の把握が困難になります。

そのため、以下のようなルールを定めましょう。

  • 副業開始前に会社への届出が必要

  • 内容に応じて会社が許可を与える(許可制)

  • 許可後も定期的な報告義務あり

 

これにより、会社としても状況把握とリスク管理が可能になります。

 

● 労働時間管理と健康配慮

 

労働基準法上、複数の会社での労働時間は通算して扱う必要がある場合があります(労基法第38条)。

とくに1日8時間、週40時間を超えると残業代の支払い義務が発生する可能性があるため注意が必要です。

 

もっとも、副業が業務委託(個人事業主)などの場合はこの規定の対象外ですが、健康管理の観点から「会社としての対応」は検討しておくべきです。


4. 労働契約書・就業規則で見直すべきポイント

 

副業解禁または制限の方針にかかわらず、以下の点については労働契約書および就業規則において明記しておくことが必要です。

 

就業規則の見直し例:

  • 副業の定義と範囲

 例:「副業とは、当社以外の事業者または個人から報酬を得て行う就労をいう」

  • 届出・許可制の規定

 例:「従業員は、副業を行うにあたり、事前に会社に届出を行い、許可を得なければならない」

  • 禁止業務の明記

 例:「以下に該当する副業は禁止とする。①競業他社での就労、②当社の信用を害する業種、③法令違反の恐れのある業務」

  • 違反時の処分規定

 例:「上記に違反した場合は、就業規則第〇条に基づき懲戒処分の対象とする」


5. 実務対応にあたっての弁護士からのアドバイス

 

副業の可否を判断するにあたり、中小企業の経営者が特に気をつけるべき点は次の3つです。

 

① 全面禁止には慎重を

 

従来のように「副業は原則禁止」とだけ規定しておくのは、今後無効と判断されるリスクが高まると考えられます。

会社としては、**「認める前提で、必要な制限を設ける」**という方向にシフトしていくことが現実的です。

 

② 業種・職種ごとの実情を踏まえる

 

情報漏洩リスクが高い職種(例:建設業の積算担当、IT企業のエンジニアなど)では、厳格なルールが求められます。

一方で、事務職やパート従業員などについては、一定の副業を認める柔軟さも必要です。

 

③ 個別のケースは専門家に相談を

 

副業に関するトラブルは、「競業避止義務違反」や「懲戒の妥当性」といった法的判断が分かれることも多く、個別具体的な対応が必要です

労働契約・就業規則の見直しを含めて、早めに弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。


まとめ:副業は「認めるか否か」より「どう管理するか」が重要

 

副業をめぐる制度設計は、企業文化や職種の特性、従業員構成などに応じて柔軟に設計する必要があります。

今後、労働力の流動化や人手不足がさらに進む中で、副業制度は**「リスク」ではなく「チャンス」として捉えるべきもの**でもあります。

 

そのためには、就業規則の整備、労働契約書の見直し、実務対応のガイドライン策定など、ルールに基づく管理体制の構築が不可欠です。


 
 
 

最新記事

すべて表示
従業員とのトラブルを防ぐ会社の対応

企業経営において、従業員とのトラブルは決して珍しいものではありません。未払い残業代、解雇をめぐる紛争、ハラスメント問題など、さまざまな労務問題が発生する可能性があります。こうしたトラブルは、会社にとって時間的・経済的な負担となるだけでなく、職場環境にも悪影響を及ぼす可能性があります。 そのため、労務トラブルは発生してから対応するだけでなく、 事前に防ぐための体制を整えること が重要です。本記事では

 
 
 
労務トラブルを弁護士に相談するメリット

企業経営において、従業員とのトラブルは決して珍しいものではありません。例えば、残業代請求、解雇をめぐる紛争、ハラスメント問題など、さまざまな労務トラブルが発生する可能性があります。 こうした問題に直面したとき、経営者や人事担当者だけで対応しようとすると、思わぬ法的リスクを抱えることもあります。そのため、早い段階で弁護士に相談することには大きなメリットがあります。本記事では、労務トラブルを弁護士に相

 
 
 
従業員から内容証明が届いた場合の対応

ある日、会社に 内容証明郵便 が届き、差出人が従業員や元従業員であった場合、経営者や担当者は驚くことも少なくありません。内容証明には、未払い残業代の請求や不当解雇の主張などが記載されていることもあり、どのように対応すればよいのか悩むケースも多くあります。 しかし、内容証明が届いたからといって、必ずしもすぐに裁判になるわけではありません。重要なのは、冷静に内容を確認し、適切な対応を取ることです。本記

 
 
 

コメント


bottom of page