労働時間・残業代の基礎知識!知らなかったでは済まされない労務管理
- moriyama

- 6月2日
- 読了時間: 4分
更新日:6月6日
中小企業にとって、人材は最も大切な経営資源です。ところが、労務管理、特に労働時間と残業代に関しては、「なんとなく」「昔からの慣習で」運用されているケースが少なくありません。
しかし、未払い残業代に関するトラブルは年々増加しており、一度問題が発覚すると数百万円単位の請求や訴訟につながることも珍しくありません。
この記事では、弁護士の視点から**「知らなかった」では済まされない労働時間と残業代の基本**について解説し、中小企業が取るべき対策を紹介します。
1. 労働時間の基本とは?
労働基準法では、以下のように「法定労働時間」が定められています。
1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならない
法定労働時間を超える労働には**時間外割増賃金(残業代)**を支払わなければならない
この基本ルールに違反する場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金といった刑事罰も定められています。
また、建設業を含む一部業種ではかつて「週44時間までOK」とされていた時期もありますが、現在は原則としてすべての事業で週40時間が適用されています。
2. 残業代の支払い義務と割増率
● 法定労働時間を超えた分には割増賃金
労働者が1日8時間、または週40時間を超えて働いた場合には、通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金(=残業代)を支払う必要があります。
さらに以下のような場合は、割増率が上がります:
深夜労働(22時~5時):25%以上の割増
法定休日の労働:35%以上の割増
月60時間超の時間外労働(※中小企業は2023年4月から対象):50%以上の割増
つまり、例えば「日曜日に22時まで働いた」というケースでは、通常の賃金+60%以上の割増を支払う必要があります。
3. 「固定残業代」は万能ではない
一部の企業では、「月●時間分の残業代を含む」として**固定残業代制(みなし残業)**を導入しています。
ただしこの制度は、法的に有効とされるために厳格な要件があります:
固定残業代に該当する時間と金額を明確に記載した雇用契約書や就業規則があること
実際の残業時間が固定分を超えた場合、超過分を追加で支払っていること
固定部分と基本給の区分が明確であること
形式が整っていない場合、「固定残業代は無効」とされ、過去2年分(場合によっては3年)を遡って残業代を支払えという事態も発生します。
4. タイムカード・日報・LINE…労働時間の証拠になるものは?
「うちはタイムカードがない」「現場作業なので打刻が難しい」という建設業の現場でも、以下のようなデータが労働時間の証拠として扱われます。
現場日報や作業報告書
勤務時間の記録があるLINEやメール
GPS機能付きの業務用アプリ
防犯カメラ・入退出記録などの間接証拠
労働時間管理を企業側が怠っていた場合、労働者側の記録が優先される傾向にあります。
そのため、企業としても客観的な出退勤記録の導入が強く推奨されます。
5. 中小企業が直面しやすい3つの誤解とリスク
誤解①:「仕事が終わらなければ自己責任」
→ 労働者が自発的に残業した場合でも、会社が黙認していれば残業とみなされる可能性があります。
誤解②:「現場移動時間は労働時間ではない」
→ 現場への移動が業務指示に基づくものであれば、移動時間も労働時間に含まれます。
誤解③:「管理職だから残業代は不要」
→ 管理職でも、労働基準法上の“管理監督者”に該当しなければ残業代は必要です(役職名だけでは不十分)。
6. 労務管理で「知らなかった」が通用しない理由
近年では、以下のような手段で未払い残業代請求が急増しています:
労働基準監督署への通報
退職後の労働者からの内容証明郵便
SNSや口コミサイトへの情報投稿
労働問題に強い弁護士による代理交渉や訴訟
一度問題が表面化すると、他の従業員にも連鎖的に波及し、数百万円規模の損害が発生するリスクもあります。
7. 中小企業が取るべき5つの実務対応
就業規則・雇用契約書の整備
労働時間、残業代、休日などを明記し、労使の認識のズレを防ぐ。
労働時間の客観的記録の導入
タイムカード、ICカード、スマホアプリなどの導入を検討。
残業申請・承認のルール化
上司の事前承認制、残業理由の記録など、管理責任を明確に。
固定残業代制度の点検
就業規則・給与明細・実際の運用をセットで見直し。
専門家への定期相談
弁護士・社労士と連携し、労務トラブルの予防を行う。
まとめ:「知らなかった」では済まされない時代へ
労働時間と残業代の問題は、企業規模に関係なく発生しうるリスクです。
しかも一度紛争になれば、時間・金銭・信用の全てに大きな打撃となります。
中小企業にとっての労務管理は、トラブル対応よりも“未然防止”が何より重要です。
制度整備と記録の徹底、そして必要に応じた専門家の関与によって、働きやすく、信頼される職場づくりを進めていきましょう。
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