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会社法の基本:中小企業が知っておくべき取締役の責任と義務

更新日:6月6日

中小企業においては、取締役が経営の中核を担うことが一般的です。オーナー自身が取締役であるケースも少なくありません。しかし、取締役という立場には法律上の責任や義務が明確に定められており、知らずにいると大きなトラブルにつながる可能性があります。

 

本記事では、会社法に基づく取締役の基本的な責任と義務について、中小企業の経営者や役員、またこれから取締役に就任する予定の方に向けてわかりやすく解説します。


1. 取締役とは何か?

 

まずは取締役の基本的な位置づけについて確認しましょう。

 

取締役とは、株式会社の業務を執行し、会社の経営判断を担う者です。会社法上、取締役は株主総会で選任され、会社の代表権を有する「代表取締役」になる場合もあります。

 

中小企業では、社長=代表取締役であることがほとんどですが、それ以外の取締役も経営に関与する重要なポジションであることに変わりはありません。


2. 取締役の主な義務

 

会社法では、取締役には以下のような義務が課されています。

 

2-1. 善管注意義務(善良な管理者の注意義務)

 

善管注意義務とは、一般的に期待されるレベルの注意・能力をもって業務を行う義務です。

 

たとえば、ずさんな経理管理や法令違反の取引を放置していた場合、「善管注意義務違反」とされ、会社や第三者から損害賠償を請求されるおそれがあります。

 

特に専門的な知識を持っている取締役(税理士、公認会計士など)には、その知識に応じた注意義務の履行が求められます。

 

2-2. 忠実義務

 

忠実義務とは、会社のために誠実に職務を行う義務のことです。

 

自己の利益や第三者の利益を優先させて会社に損害を与えた場合には、忠実義務違反とされます。

 

例:

  • 会社の機密情報をライバル会社に提供する

  • 取締役が自らの会社に有利な契約を締結させて、自分の別会社に損害を与える

 

このような行為は、明確に忠実義務に違反するものです。

 

2-3. 利益相反取引の開示義務

 

取締役が会社と取引をする場合や、会社と競合する事業を行う場合には、事前に取締役会の承認を得る必要があります。

 

これを怠った場合、会社から取引の無効や損害賠償を求められる可能性があります。

 

中小企業では、取締役が複数の法人を経営していることも多く、意図せず利益相反になるケースもあるため、特に注意が必要です。


3. 取締役の責任

 

次に、取締役が負う法的責任について見ていきましょう。大きく分けて2種類の責任があります。

 

3-1. 民事責任

 

取締役が職務を怠った結果、会社に損害を与えた場合、会社から損害賠償責任を追及されることがあります(会社法423条)。

 

また、会社だけでなく第三者(例:取引先や債権者)に損害を与えた場合にも、直接責任を問われることがあります(会社法429条)。

 

例:

  • 虚偽の決算書をもとに出資を募った結果、投資家が損害を被った場合

  • 明らかに不利益な取引を会社にさせ、取引先が損失を受けた場合

 

これらの行為は、結果が重大であれば取締役個人が多額の損害賠償責任を負う可能性があります。

 

3-2. 刑事責任

 

取締役が法令違反行為を行った場合、刑事罰の対象になることもあります。

 

たとえば、

  • 粉飾決算(有価証券報告書の虚偽記載)→ 金融商品取引法違反

  • 資金の流用 → 背任罪や横領罪

  • 税務申告の虚偽 → 所得税法違反、法人税法違反

 

などが典型例です。

 

「中小企業だからバレないだろう」と安易に考えるのは危険です。最近では税務署や金融機関による調査も厳しくなっており、小規模法人でも刑事責任を問われる事例が増えています。


4. よくある誤解と落とし穴

 

「オーナー社長だから大丈夫」は通用しない

 

自社の株式を100%保有していたとしても、法人と個人は別です。取締役としての法的義務は免れません。

 

個人の判断で法人資産を流用したり、無理な取引を強行した場合、自分自身に損害賠償や刑事責任が及ぶ可能性があります。

 

役員任期の放置もリスク

 

中小企業では、取締役の任期更新を怠り、登記が数年放置されていることも珍しくありません。しかしこれは会社法違反であり、過料(罰金)を科される可能性があります。

 

また、任期が切れている状態での取締役行為には法的な効力が問われる可能性もあるため、適正な手続きが重要です。


5. 中小企業がとるべき対策

 

5-1. 定期的な法務チェック

 

顧問弁護士や税理士に依頼し、契約書の内容や取締役の責任範囲について定期的にチェックを受けましょう。特に利益相反が疑われる取引については事前相談が重要です。

 

5-2. 社内規程や議事録の整備

 

取締役会議事録や株主総会議事録は、将来のトラブル予防に不可欠です。口頭の合意だけで進めるのではなく、文書による記録を徹底しましょう。

 

5-3. D&O保険の活用

 

取締役賠償責任保険(D&O保険)は、取締役が業務上の過失により損害賠償責任を負った場合のリスクをカバーします。中小企業でも加入できるプランがあるため、検討の価値があります。


6. まとめ

 

取締役は「経営のトップ」というイメージが強い一方で、その責任と義務には法律による厳格なルールが存在します。特に中小企業では、会社と個人の線引きが曖昧になりがちなため、注意が必要です。

 

知らなかったでは済まされないのが会社法の世界。

 

取締役に就任する際は、その役割の重さと責任を理解し、適切な行動を心がけることが会社の持続的な発展につながります。

 
 
 

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